■今の私たちの暮らしにつながる先人たちが取り組んできたこと
明善記念館 館長金原利幸さん
明善翁の功績でみなさんに最も知られている事業が「暴れ天竜」の異名で住民を苦しめていた天竜川の治水事業だと思います。工事が進むことで、洪水などの被害は減少していきましたが、治水事業は、川沿いに住んでいた人たちに喜ばれるものばかりではありませんでした。
天竜川下流域の堤防を決壊させる原因の一つに支川がありました。東派川と西派川があり、明善翁はこの支川の締め切りを計画していました。しかし、掛塚港への水路として利用されていた東派川の締め切りは、掛塚村民にとっては死活問題でした。
また、西派川の締め切りには、一帯に住んでいた多くの人たちに別の場所に移り住んでもらう必要がありました。
治水事業は、そこに住む人たちの生活を大きく変えてしまうことでもあります。今の私たちの暮らしは、先人の苦労によって成り立っていることを決して忘れてはいけないと思います。
明善翁が亡くなってから10年以上経った昭和10年、国は東派川の締め切り工事に着手、さらにその15年後の昭和25年には西派川の締め切り工事にも着手し、現在の流れに変わりました。
明善記念館では、当時の図面など貴重な資料や遺品なども数多く展示しています。明善翁が生涯を捧げて挑んだ数々の偉業に触れてみてください。
◆金原明善没後100年企画
▽記念講演「没後100年郷土の偉人金原明善」
(講談師:田辺一邑(いちゆう)さん)
7月1日(金)に開催する市制施行111周年記念式の中で、金原明善翁を題材とした記念講演を行います。
※市制記念式については、広報紙19ページで確認してください。
▽記念展示会
日時:7月2日(土)〜8月28日(日)
場所:明善記念館(東区安間町)
内容:天竜川平面図など金原明善翁の功績に関する資料の展示
〇明善記念館
開館:9:00〜17:00
休館:月・火・水曜日、年末年始
場所:東区安間町1
【電話】421-0550
※入館料無料。駐車場あり
【HP】「明善記念館」で検索
https://wm-meizen.jp/birthplace/
■「五十年、八十年先の国土を富ます」
森林は、雨による表土の流出を抑えて山崩れを防いだり、雨水を貯めて河川へ流れる水の量を調整して洪水を防いだりすることで、私たちの生活を守っています。
また、切り出された木材は建築用資材、薪や炭として、古くから私たちの生活に利用されてきました。
明治時代以降になると日本の近代化が進み、加工が容易な木材の需要が拡大します。その結果、明治時代中期は日本の森林の多くが荒廃していた時期と言われています。
明善翁は、森林の多面的な機能をよみがえらせるため、現在の天竜区龍山町瀬尻の国有地およそ760haに292万本、隣接する私有地およそ1,200haに401万本の植林を行い、森林を整備しました。
明善翁が行った森林整備、そしてその思いを引き継いできた先人たちの弛(たゆ)まぬ努力が、「天竜美林」として現在に受け継がれてきました。そして、今日の私たちには、「五十年、八十年先の国土を富ます」という明善翁の思いと、先人たちが残してきた森林を確実に未来につなげていくという役目があります。
現在、浜松市の森林は、適切な森林経営・管理を評価・認証する国際認証制度であるFSC森林認証を取得するまでになりました。2022(令和4)年4月1日現在、市町村別の取得面積としては国内最大の広さとなる49,441haの森林がFSCの認証林となっています。
■SDGs(持続可能な開発目標)と森林
「SDGs(持続可能な開発目標)」は、2015年9月の国連サミットにおいて加盟国の全会一致で採択された2030年までの国際目標です。持続可能でよりよい世界を実現するための17の目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットから構成されています。17の目標の中には、森林分野に関連が深い目標があり、森林を守り育てていくことは、SDGsの目標の達成に大きく寄与します。
▽目標13気候変動に具体的な対策を
大気中のCO2を吸収する森林を保全し、地球温暖化の原因である温室効果ガスの抑制につなげる
▽目標15陸の豊かさも守ろう
陸上における生態系を保全するため、失われつつある森林を守り、そこに住む多種多様な動植物を守る
明善翁が150年以上も前に取り組んでいた活動は、今世界中の人や企業が取り組んでいる「誰もが豊かで安心・安全な暮らしを継続できること」につながっています。
◎この特集に対するお問い合わせは、林業振興課(【電話】457-2159)へお寄せください。
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