■第11話 黄泉国(よみのくに)へ疑似体験―神話へのいざない―
黄泉国って、ご存じでしょうか。人が亡くなった後に出向くところ、今風に言えば「あの世」のことです。日本神話をおさめた『古事記』や『日本書紀』にも登場し、古代人の死生観を垣間見ることができます。
中でもイザナギ、イザナミ夫婦に関わる話は有名です。そのあらすじは次の通り。
妻イザナミに先立たれた夫イザナギは、愛妻のことが忘れられず、黄泉国まで追いかけます。死後の世界で再会した妻を、現世に連れ帰ろうとしますが、妻は黄泉国の食事をしてしまったので、帰れないと言います。あきらめ切れない夫は、妻から「姿を見ない」という約束を交わし説得しますが、我慢できずに妻の姿をチラ見してしまいます。すると、ウジが取りつく変わり果てた妻の姿が目の前に。驚いたイザナギは、態度を一変させ、慌てて逃げようとします。一方、約束を破られたイザナミは怒り狂い、夫を追いかけていく…。
この話は、暗闇の世界で繰り広げられたとされており、今に残る古墳の石室にその情景が重なります。石室には横方向の入口がありますが、奥に進むと暗くなり、闇の世界に行き着きます。最奥の空間が死者を葬る場所、玄室(げんしつ)です。石室を発掘すると、数多くの土器が出土しますが、神話にでてくる「黄泉国での食事」を思い起こさせます。
古代人は、死者の魂が鳥になってあの世に旅立つとも考えていました。歴戦の勇者ヤマトタケルが旅の途中で息絶え、白鳥になってふるさとに帰っていった話も神話の中に出てきます。
古墳の出土品には、鳥があしらわれた土器があります。死者の魂を運ぶ精霊として、鳥が意識されていた確かな証拠といえるでしょう。
市内には、出入り可能な石室をもつ古墳が、十基ほど知られています。黄泉国への旅が疑似体験できる貴重な空間です。一四〇〇年前の古墳時代へ、どうぞ、お出掛けください。
(文:浜松市文化財課)
▼浜松市博物館では小展示「古墳へでかけよう!〜浜松の横穴式石室(よこあなしきせきしつ)〜」を開催中。鳥装飾の土器にも出会えます!
5月8日(日)まで(月曜休館・5月2日は開館)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/hamahaku/02tenji/theme/kohunnhedekakeyou.html
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