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【連載】はままつ文化財の散歩道

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静岡県浜松市

■第8話 芸能の痕跡を求めて(古面(こめん))
浜松市の北区・天竜区から奥三河、南信州にかけての地域は、多種類の芸能が、重層的に伝わる珍しい地域で、民俗芸能の宝庫と呼ばれています。これらの民俗芸能で欠くことができないのが「面」です。面は実に多種多様で、面そのものを信仰の対象とすることもあり、その詳細を調べることにより過去に行われていた芸能を知ることもできます。
二〇二〇年から北区や天竜区のいくつかの神社を回ったところ、現在、芸能は途絶えているものの、今も大事に保管されている面が多くあることが分かりました。天竜区佐久間町の佐久間神社には、神楽舞や獅子舞で使用された面とともに、佐久間ダムの建設によって水没した山室地区で行われていた「花の舞」の面が大切に保管されていました。
同じく佐久間町の羽ヶ庄(はがしょう)地区や峰地区にも、かつて行われていた「花の舞」の鬼や天狗(てんぐ)、人物の面などが残されていました。羽ヶ庄の面は木彫りで大胆な凹凸がつけられ、かつて施されていた派手な着色の痕が残っており、峰の面には塗り直した痕が見られます。羽ヶ庄と峰のいくつかの面の内側には「信州八幡(やわた)住人熊谷安太郎・慶応二年(一八六六)○月○日」といった墨書(すみがき)があり、江戸時代の終わりに、信州(八幡は現在の飯田市内の地名)の彫刻師に発注した面であることが分かります。羽ヶ庄や峰に近い佐久間町下平地区にも、安永三年(一七七四)「遠江豊田住人大仏師吉三郎」作や、天保四年(一八三三)「信州下伊那郡小田村久兵衛」作の面が残されており、遠方に面を発注し、長く使用されてきた地域の歴史が垣間見えます。
正月には、国の重要無形民俗文化財である「寺野のひよんどり」、「川名のひよんどり」、「懐山(ふところやま)のおくない」や、同じ系統の「滝沢のおくない」、「神澤のおくない」といった祭礼・芸能が行われていますが、北区引佐町の別所(べっしょ)や狩宿(かりしゅく)の地区でも類似の祭礼が行われていたようで、共通する演目の面が地域の神社に残されています。
市内にはまだ知られていない古面も数多くあると考えられます。使われなくなった多くの面を眺めていると、現在も行われている芸能は幾多の危機を乗り越えてきた、非常に貴重な行事であることが改めて認識できます。新型コロナの危機も乗り越えて末永く継承されていくことを願って止みません。
(文:浜松市文化財課)
※文中にある「面」は【めん】または【おもて】と読みます
※彫刻師の名前の読み方については、正確な記録がないため不明です
※「花の舞」…奥三河の「花祭り」と共通する民族芸能で、天竜区佐久間川合の「川合花の舞」は静岡県指定無形民俗文化財
【市HP】「国・県指定文化財一覧」で検索

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