■第1話 古代の文化財修理
浜松市には数多くの文化財がありますが、その中には国外で製作されたものもみられます。今回紹介する「金銀装円頭大刀(きんぎんそうえんとうたち)」も、そうした舶来品(はくらいひん)の一つと考えられます。
製作年代は西暦五二〇年ごろ。推定される製作地は、当時「百済(くだら)」、「加耶(かや)」と呼ばれていた朝鮮半島南部です。木製の柄(つか)(握る部分)には、日本列島には例がない龍や波形の模様が彫刻され、金や銀の板で覆われた豪華な刀です。
この刀は、二〇〇八年に鳥居松(とりいまつ)遺跡(中区森田町)で行われた発掘調査で出土しました。刀は発掘直後に保存修理を施したのですが、その過程で驚くべき事実が判明しました。
木製の柄の先端には、純度の高い金の板がかぶせられていましたが、ところどころ、金の板が剥がれていました。この剥がれた部分に、別の金の板があてられ、長さ5ミリメートルほどの小さな金や銀の釘が打ち込まれていたのです。金や銀の釘はX線写真で鮮明に浮かび上がりました。一五〇〇年前に行われた修理の痕跡です。
刀の柄に使われている木材はカエデ属。堅い木材なので、小さく柔らかな金銀の釘を打ち込むには高い技術力が必要です。また、金や銀の釘を装飾に配慮して使い分けており、丁寧な仕事ぶりがうかがえます。
この刀は、大切に扱われ、ついに浜松の地までやってきました。出土したのは、幅20メートルほどの川の底です。出土した時、刀は鞘(さや)が抜かれていた状態でした。刀の最後は、刃部をあらわにして川底に沈める祭祀(さいし)に用いられたようです。丁寧な修理を経た貴重な刀を川底に沈めた権力者。一体、どんな人物だったのでしょうか。想像が膨らみます。
(文:浜松市文化財課)
▼刀は、地域遺産センター(北区引佐町井伊谷)で特別展示をします(6月19日(土)〜8月29日(日))
【市HP】「金銀装円頭大刀」で検索
詳細な情報はホームページにも掲載しています
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